やきもの散歩道
夫婦共通の趣味といえば二つくらいしかない。1つは焼き物。僕は完成した酒器にしか興味がないが、奥さんは焼き物そのものが好きみたい。岐阜県の東濃地方に赴任していたころは、陶芸家の工房にお邪魔して見よう見まねでろくろを回していたようだ。よって我が家には処分したくても捨てられない器や皿が沢山ある。
もう1つは読書。彼女は独身の頃からレイモンド・チャンドラーなど海外ミステリーが好きだが、僕はあまり読まない。一気に最後まで読みたくなるから疲れる。でも最近は、岐阜県出身の米澤穂信が直木賞を受賞したのでミステリーも読むように。先日は、東野圭吾の「白鳥とコウモリ」を読んだ。彼の作品は20年くらい前に「白夜行」など数冊しか読んでいなかった。
たまたま古本屋で目当ての作家の本がなかったので手ぶらで帰るのも寂しいなと思い題名に引かれ購入。昨年に発売された本だ。読み進めていくと常滑市の「やきもの散歩道」が登場する。常滑という設定に一瞬なぜと思ったが、小説家になる前はデンソーの社員だったから、うなずける。地理にも明るい。
こうなると聖地巡礼じゃないけど気になって仕方がない。ここは映画「20世紀少年」のロケ地でもあり、白黒写真を撮るにはうってつけの場所。奥さんに「今度の休日、器を買いに行こうよ」と誘い、いざ常滑に。と言っても名鉄岐阜駅から中部国際空港行きの特急に乗って1時間余り。旅行とは言い難い、遠足もしくはちょっと遠出の散歩である。
名鉄常滑駅から東に向かい「とこなめ招き猫通り」を歩くこと10分。陶磁器会館に着く。ここが「やきもの散歩道」の入口。小高い丘で坂が多い。昭和初期に栄えた窯業集落で、歴史的産業遺産でもある。江戸時代から明治にかけて廻船業を営んでいた「瀧田家」や「土管坂」「でんでん坂」など写真スポットは多数。
ちなみに「白鳥とコウモリ」の中では両方の坂が登場しますが「でんでん坂」の入口で「えっ何ですかこれ」と女性が感嘆の声を漏らすと男性が「常滑焼の焼酎瓶だそうです」と説明するシーンがあります。「土管坂」の方が有名なのに「でんでん坂」で主人公2人の会話シーンを使うのは場所を知り尽くしている証ですね。まあ作品には3つ目の坂「まさか」もありましたが。結婚式のスピーチか。
若い作家さんの工房もあり、奥さんが茶碗と箸置きを買いました。帰りの電車で「茶碗も箸置きも4つずつ買っちゃった。2人暮らしなのにね」と。「良いじゃないか。子どもら夫婦にプレゼントすれば」「それもそうね」。横で笑う奥さんを見て、今度、来るときは孫らに小さな茶碗を買おうかと言いかけたが「まだ早いわよ」と言われそうで心の中でつぶやいた。
監修者プロフィール
藤田 聡
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1960年岐阜市生まれ。元新聞記者。経済紙、通信社、地方紙の3媒体で記事を書く。専門は経済。 |