生命保険に加入すると、自分自身や家族に不測の事態が起こったときの経済的な負担をカバーしやすくなります。しかし、生命保険にもさまざまな種類があるので、「どの保険で将来起こり得るリスクに備えれば良いか分からない」と悩む人も多いのではないでしょうか。
特に自動車保険に関しては、交通事故による入院や通院、手術などで生じる損害を生命保険でカバーできるので、「備えが重複するのでは?」と思うかもしれません。今回は、自動車保険と生命保険の違いを説明したうえで、交通事故に生命保険で備える際のポイントについて詳しく説明します。
まずは損害保険と生命保険の違いを知ろう
損害保険の1つである自動車保険は、生命保険とは違った意味合いがあります。どちらももしものときに生じる経済的な負担を補うものですが、それぞれどのような特長があるのでしょうか。
まずは、損害保険と生命保険の違いについて知っておきましょう。
損害保険とは?
損害保険とは、交通事故やレジャー中のケガ、自然災害や盗難など、偶然起こったアクシデントで損害が発生をカバーする保険です。損害保険の多くは「実損払方式」で、実際に生じた損害額が支払われます。
たとえば、交通事故で治療費として30万円かかった場合、損害保険から支払われる金額の上限は30万円です。盗難で100万円の貴金属を失ったときは、100万円を上限に保険金が支払われます。ただし、設定した保険金の支払い上限額や、損害が発生したときの契約者の過失の程度によっては、全額保険金が支払われないので条件の確認が必要です。
生命保険とは?
一方、生命保険は、病気やケガにかかったときに、あらかじめ決まった保険金や給付金が支払われる保険です。損害保険とは違い、場合によっては損害を上回るお金を受け取れる可能性があるため、万が一のことが起こっても葬儀費用や家族の生活費、子どもの教育費やリフォーム費などをまかないやすくなります。
また、生命保険の中には養老保険や個人年金保険のように、満期まで生存していたときにまとまったお金を受け取れるものもあります。死亡時や高度障害状態になったときの保障に加えて老後資金の備えもできるため、日々の暮らしをより安心なものにできます。
交通事故で自動車保険と生命保険両方から保険金を受け取れる?
自動車保険と生命保険は、同じ保険でも異なる性質を持っていますが、もし両方の保険に加入した場合、どちらも交通事故で生じる損害をカバーできるのでしょうか。
先述したように、損害保険である自動車保険に加入していれば、補償の範囲内で実際に生じた損害額を支払ってくれます。それに加えて、生命保険に加入していれば、条件を満たせば入院給付金や手術給付金、死亡保険金などを受け取れます。つまり、交通事故では、自動車保険と生命保険両方を使うことは可能で、どちらか一方の保険を使ったときよりも手厚いサポートを受けられます。
ただし、相手がいる交通事故の場合、自身が加害者か被害者かによって受けられる補償が変わります。以下では、状況別で補償内容について説明します。
自身が加害者の場合
自身が加害者の場合、自動車保険の人身傷害保険に加入していれば、入院や手術などでかかった治療費を補償してもらえます。一方、生命保険の場合、入院や手術に対しては、入院給付金や手術給付金が支給されます。もし契約者が死亡したり高度障害状態になったりすれば、死亡保険金や傷害保険金として、まとまったお金を受け取れます。
また、事故の加害者になった場合、「加害者になったので過失があるぶん補償が少なくなるのではないか」と考えるかもしれません。もちろん、相手方への補償は自動車保険などで行わなければなりませんが、人身傷害保険や各種給付金、死亡保険金などは自身の過失が影響しないので、充実した補償を受けられます。
自身が被害者の場合
自身が被害者の場合は、加害者の自動車保険などから身体や自動車への損害、休業損害や慰謝料などが支払われます。しかし、自身にいくらかの過失があれば、損害額を全額支払ってもらうことはできません。その場合、自動車保険の人身傷害保険に加入していれば、限度額の範囲内で損害額をカバーしてもらえます。
また、生命保険に加入していれば、自身が加害者であるときと同様に、入院給付金や手術給付金、死亡保険金や傷害保険金などを過失の有無に関係なく受け取れます。相手方から受け取る保障と合わせると、自身が加害者のときよりもさらに手厚いサポートを受けられるケースもあるので、事故後の生活を安定させやすくなります。
交通事故に手厚く備えられる生命保険の特約
先述したように、交通事故によるトラブルは、自動車保険だけでなく生命保険でも備えられます。しかし、生命保険の種類によっては交通事故の損害をうまくカバーできないケースもあるので、付けておくべき特約を知っておく必要があります。
以下では、交通事故に手厚く備えられる生命保険の特約について詳しく説明します。
災害入院特約
災害入院特約は、医療保険の中でも災害が原因で入院の必要性が生じたときに給付金が受け取れる特約です。災害と聞くと風水害や地震などをイメージするかもしれませんが、ここで言う災害は偶然かつ突発的に起こった外来のケガのことを指すため、交通事故も保障されます。
また、保険会社によっては1泊2日の入院や日帰り入院を保障するものもあり、支払い限度日数を延ばせば長期間の入院に備えることも可能です。ただし、事故が発生してから180日以上経過してから入院したときは保障対象外になるなど、場合によっては治療費をカバーしてもらえないケースがあるので、あらかじめルールを確認する必要があります。
災害割増特約
災害割増特約とは、災害や不慮の事故によって死亡したり高度障害状態になったりしたときに、通常の死亡保険金に加えてお金を受け取れる特約です。たとえば、生命保険の死亡保険金を1,000万円に、災害割増特約の支払額を500万円に設定した場合、交通事故で死亡すると合計1,500万円の保険金が受け取れます。
もちろん、災害割増特約で保障を手厚くするほど保険料は高くなりますが、もしものときに受け取れるお金が増えるので、遺された家族の生活費や保険料をしっかり補填できます。「自動車をよく運転するので、事故で死亡したときの備えを充実させたい」という人は災害割増特約を検討すると良いでしょう。
特定損傷特約
特定損傷特約は、不慮の事故で骨折や関節脱臼、腱の断裂など特定のケガを負って治療が必要になったときに給付金が受け取れる特約です。入院日数に応じて給付金が支払われる災害入院特約とは違い、特定のケガを負ったら所定の給付金を受け取れるので、経済的な損失を上回るお金を受け取れる可能性があります。
ただし、災害入院特約と同様に、ケガをしてから一定期間以内に治療を開始しなければ保障対象外になるので注意が必要です。「事故をしてから7ヵ月経過してから骨折の治療を始めた」など、治療開始日が遅くなると給付金を受け取れなくなるので、気になる症状があれば早めに受診することが大切です。
傷害特約
傷害特約は、不慮の事故で死亡したり高度障害状態になったりしたときに、基本保障の死亡保険金や障害保険金などに加えて、保険金を受け取れる特約です。また、身体に障害が残った場合、障害等級に応じて障害給付金を受け取れるので、災害割増特約よりも広範囲のリスクに備えられます。
具体例として、交通事故で視力を失った場合や、手や足の機能を失った場合などが挙げられます。給付対象となる障害や給付割合といったルールは保険会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
交通事故に生命保険で備える際のポイント
自動車保険に加えて生命保険でも交通事故に備える場合、次のポイントを意識すると適切な備えを用意しやすくなります。
- ・生命保険で足りない部分を自動車保険で補う
- ・保障が重複しないよう注意が必要
- ・保障対象外になるケースを知っておく
- ・家族間での事故では保障を受けられない場合がある
- ・運転者に重大な過失があると保障が受けられない
以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。
生命保険で足りない部分を自動車保険で補う
生命保険に加入すれば、病気だけでなくケガにも備えられるため、自動車事故で起こり得る損害をある程度カバーできます。そのため、自動車事故にしっかり備えたいのであれば、生命保険で足りない部分を自動車保険で補うのも方法の1つです。
たとえば、「がんになったときの備えはできているけれど、ケガでの備えができていない」という人は、自動車保険の人身傷害保険を充実させればより広範囲のリスクをカバーできます。上述した災害入院特約や災害割増特約などが充実しているのであれば、そこまで自動車保険を手厚くする必要は無いので、バランスを考えながら備えましょう。
備えが重複しないよう注意が必要
生命保険と自動車保険両方に加入する場合、保障が重複しないよう注意が必要です。たとえば、「もしものときに家族に3,000万円遺したい」と思っている場合、生命保険で死亡保障をすでに3,000万円に設定していれば、自動車保険の保障を手厚くすると保障が重複するだけでなく過剰になってしまいます。
備えが重複すればそれだけ保険料の負担も増えるので、家計が厳しくなるかもしれません。備えと保険料のバランスを適正に保つためにも、不測の事態が起こったときにどれくらいのお金が必要になるかを考えたうえで、生命保険と自動車保険でいくらずつ備えるかを決めましょう。
保障対象外になるケースを知っておく
どれだけ交通事故に手厚く備えても、状況によっては保障対象外になります。
いざというときに保険から必要なサポートが受けられなければ、自分自身の資産を大幅に失うかもしれません。また、治療に専念しにくくなるだけでなく、命に関わる出来事が起こっても家族に十分なお金が遺らなくなるので、どういったケースが保障対象外か知ることも大切です。
家族間での事故では補償を受けられない場合がある
自動車保険では、家族間の事故が補償対象外になることが多いです。たとえば、夫と妻が別の自動車を運転しているときに、妻の自動車が夫の自動車に追突したとします。その場合、対人賠償保険や対物賠償保険の適用外とみなされるため、お互いのケガや自動車への損害を保険でカバーできせん。
また、妻と子どもが同乗している自動車を夫が運転しているときに、電信柱にぶつかって子どもがケガをしたとします。そのときも、家族間の事故とみなされるため、自己負担で治療費をカバーしなければなりません。損害保険である自動車保険は、あくまで他人の身体や財物への損害を補償するものであるということも知っておきましょう。
自身に重大な過失があると保障が受けられない
ほとんどの保険では、契約者に重大な過失が認められると保障の適用外になります。具体例として、ケガなどの原因が飲酒運転や信号無視、スピード違反や酒気帯び運転といった過失が挙げられます。
重大な過失が認められる運転の場合、大きなケガにつながるだけでなく、法的な責任も問われる可能性があります。ケガなどの損害も自分自身でカバーしなければならないので、十分注意して運転しましょう。
まとめ
ここでは、損害保険と生命保険の違いを説明したうえで、交通事故に遭ったときに受けられる保障について説明しました。
自動車を運転する機会がある人は、事故によるケガのリスクを踏まえて備えを用意しなければならないので、生命保険と自動車保険のバランスを考えて保険に加入する必要があります。場合によっては備えが重複するので、ライフステージや将来の計画に沿って定期的に見直すことも大切です。
事故の状況によっては保険会社のサポートが得られなくなるケースもあるので、保険の種類ごとのルールを確認するとともに、リスクを回避する行動を心がけましょう。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。