生命保険は、病気やケガで生じる経済的な負担をカバーするものだと思われがちです。しかし、生命保険に加入している人だからこそ利用できる制度もあるため、不測の事態に備えて生命保険を活用する方法を知っておくことも大切です。
生命保険の加入者が使える制度として重要なものに「契約者貸付制度」があります。この制度を活用すれば、経済的な余裕が無くなったときに保険会社にサポートしてもらえるので、仕組みを知っておくことが大切です。ここでは、契約者貸付制度の概要や利用条件、利用するメリットデメリットや申し込みの流れについて詳しく説明します。
そもそも契約者貸付制度とは?
契約者貸付制度とは、契約している保険会社からお金を借りる制度です。契約者が借入できるお金には、生命保険を解約したときに受け取れるお金である「解約返戻金」が充てられてます。
契約者貸付制度を使えば、突然収入が途絶えて家計が苦しくなったときや、急にまとまった資金が必要になったときに、ある程度のお金を借入できます。親族や金融機関、消費者金融などからお金を借りなくても良いので、他者とのトラブルを避けつつ手続きの手間を抑えて経済的な負担をカバーできるでしょう。
契約者貸付制度の利用条件
保険会社からお金を借入できる契約者貸付制度ですが、誰でも無条件で利用できるわけではありません。お金が必要なときにすぐに利用できるよう、契約者貸付制度の利用条件を知っておきましょう。
契約者本人でなければならない
契約者貸付制度は、契約者本人でなければ利用できません。そのため、生命保険を契約する際は、将来契約者貸付制度を利用することを考えて契約者を設定する必要があります。
たとえば、契約者が父親で被保険者が子どもである場合、子どもが成人してから契約者貸付制度を利用しようと思っても保険会社からお金を借りれません。このようなケースでしは、契約者を父親から子どもに変更することで、子どもが保険会社からお金を借りれるようにする必要があります。
ただし、学資保険における契約者貸付制度では、契約者が子どもであっても親権者がお金を借りることが可能です。わざわざ契約者の変更手続きをする必要が無いので、保険会社が設定する条件を満たしていればすぐに借入できます。
解約返戻金がある生命保険でなければならない
先述したように、契約者貸付制度で契約者に貸すお金は、生命保険の解約返戻金が充てられます。そのため、この制度を利用して保険会社からお金を借りるには、解約返戻金がある程度ある生命保険に加入していなければなりません。
たとえば、無解約返戻金型保険や多くの定期保険といった解約返戻金がない生命保険では、契約者貸付制度を利用できない可能性が高いです。一方、終身保険や養老保険のように解約返戻金がある生命保険であれば、契約者貸付制度を利用できるでしょう。
ただし、終身保険や養老保険などに加入しても、加入期間が短く解約返戻金がほとんど無い状態では、契約者貸付制度を利用できない場合があります。保険会社によっては、解約返戻金がある生命保険であっても契約者貸付制度を設けていないところもあるので、契約前に確認しておきましょう。
契約者貸付制度で借りられる金額はいくら?
では、契約者貸付制度を利用すると、どれくらいのお金を借りれるのでしょうか。
先ほど述べたように、契約者貸付制度は解約返戻金を元手にして契約者がお金を借りるものです。しかし、解約返戻金がどれだけあったとしても、契約者貸付制度で借入できる金額は解約返戻金の7~9割程度です。この割合は保険会社によって違うので、どれくらいの金額を借入できるか保険会社に確認しておきましょう。
契約者貸付制度を利用するメリット
お金を借りる方法はたくさんありますが、契約者貸付制度を利用して借入することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。契約者貸付制度を利用するメリットとして、次の5つが挙げられます。
- 保険契約を続けたままお金を借りられる
- カードローンより金利が低くなりやすい
- 返済方法の自由度が高い
- 審査を受けずにお金を借りられる
- 上限の範囲内で何度でも借りれる
以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。
保険契約を続けたままお金を借りられる
家計が苦しくなると、「支出を抑えるために生命保険を解約しなければ」と思うかもしれません。しかし、契約者貸付制度を利用すれば、保険契約を続けたままお金を借りれます。
もし保険を解約すると、その時点で将来の備えが無くなるだけでなく、年齢や持病によっては再加入を断られるかもしれません。加入できたとしても、以前より保険料が高額になる可能性もあるので、契約者貸付制度が保険契約を維持できるメリットは大きいです。
また、契約者貸付制度で保険契約を続ければ、加入期間が長くなるため将来受け取れる解約返戻金が増えやすくなります。支払った保険料に対して受け取れる解約返戻金の割合である「返戻率」は保険会社ごとに異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
カードローンより金利が低くなりやすい
契約者貸付制度で保険会社からお金を借りると、カードローンで借入したときよりも金利を抑えることが可能です。
この制度で適用される金利は、保険会社にもよりますが年間2~6%程度となっています。カードローンの金利が年間3~18%程度であることを考えると、場合によっては大幅に減量を抑えて借入できます。
借入する金額によっては、利息が数%違うだけで支払う利息が大幅に変わるケースもあります。経済的に厳しい状況になると、お金を借りることばかり意識するかもしれませんが、将来的な返済負担を抑えるためにも、利息を抑えた借入方法を検討できるようにしておきましょう。
返済方法の自由度が高い
返済の自由度が高いのも、契約者貸付制度のメリットです。多くの借入方法では数か月や数年間の返済期限が設けられていますが、契約者貸付制度は、生命保険の契約期間内であればいつでも返済できます。
具体的な返済方法として、毎月返済やボーナス月ごとの返済、数年後に資金を貯めてから一括返済する方法が挙げられます。ライフプランや収支のバランスに合わせて返済できるので、長期的な返済プランを考えやすくなるでしょう。
審査を受けずにお金を借りられる
カードローンなどでお金を借りるときは、収入や他社での借入状況などの審査をクリアしなければなりません。しかし、契約者貸付制度では、このような審査を受けることなく借入手続きを進められます。
もちろん、制度を利用する人が契約者本人であるか、貸付できるほどの解約返戻金があるかといった確認はありますが、過去の信用情報を理由に断られることはありません。そのため、「以前借金の返済が滞ったことがある」「クレジットカードの引き落とし日までに現金を用意できなかったことがある」という人でも安心して申請できます。
上限の範囲内で何度でも借りれる
契約者貸付制度は、上限の範囲内であれば契約期間中に何度でもお金を借りれます。そのため、「最初に10万円借りたけれど、1年後にさらに10万円必要になった」というケースでも、借入可能金額の範囲内であればお金を貸してもらえます。
先述したように、契約者貸付制度には審査がないので、最短当日に借入することも可能です。「突然まとまったお金が必要になった」というケースでも対応してもらいやすいのは、契約者貸付制度ならではのメリットだと言えます。
契約者貸付制度を利用するデメリット
利用するメリットが大きい契約者貸付制度ですが、次の3つのデメリットもあります。
- 利息がかかる
- 受け取れる保険金額が少なくなる場合がある
- 返済が遅れると保険契約が終了する可能性がある
以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。
利息がかかる
先述したように、ほかの借入方法と同様に契約者貸付制度にも利息が発生します。カードローンなどを利用するよりも利息を抑えやすいものの、借入金額が多かったり借入期間が長期化したりすると、それだけ支払うべき利息も増えてしまいます。
契約期間内であればいつでも返済できる契約者貸付制度ですが、利息は借入した金額に繰り入れられるので、返済するペースによってはいつになっても借金が減らない可能性があります。場合によっては返済の負担が続いて日々の生活が苦しくなるので、制度を利用する際は長期的な返済計画を立てなければなりません。
受け取れる保険金額が少なくなる場合がある
契約者貸付制度を利用して借入したお金が返済できないと、将来受け取れる保険金額が少なくなる可能性があります。
たとえば、未返済のまま満期を迎えると、満期に達したときに受け取れるお金である満期金から未返済額が引かれて手元に残るお金が少なくなるでしょう。契約期間中に被保険者が死亡した場合、本来受け取れるはずの死亡保険金から未返済額が差し引かれるので、十分な経済的サポートを受けられなくなるかもしれません。
このようなデメリットを避けるには、借入額を最小限に抑えるとともに、できるだけ早期に返済を終えることが大切です。
返済が遅れると保険契約が終了する可能性がある
契約者貸付制度で借入したお金は、契約期間中であればいつでも返済できると述べましたが、場合によっては契約期間中に保険契約が終了する可能性があるので注意が必要です。
保険契約が終了する具体的な場面として、借入した金額と利息を合わせた金額が、その時点で受け取れる解約返戻金額を超えたときが挙げられます。返済が遅れたからといって突然保険契約を打ち切られるのは考えにくいですが、事前に保険会社が設定するルールを確認しておくと、より計画的に返済できるでしょう。
契約者貸付制度を申し込むときの流れ
契約者貸付制度の仕組みを知っていても、いざ現金が必要になったときにどのように制度を利用すれば良いか知らないとうまく借入できません。不測の事態が生じたときに円滑に借入するには、契約者貸付制度を申し込むときの流れを理解しておく必要があります。
契約者貸付制度を利用するときは、まず保険会社に制度を利用したい旨を電話などで伝えます。すると、申込書が自宅に郵送されるので、氏名や住所、借入金額や振込先の口座などの必要事項を記入して、後述する必要書類を添付して返送します。
書類が保険会社に到着し、審査が終わると指定した口座に現金が振り込まれます。保険会社によっては、電話のほかにATMやインターネット、店頭窓口で手続きを進められるところもありますが、いずれも証券番号の提示を求められるので、事前に保険証券を用意しておくと円滑に手続きを進められるでしょう。
契約者貸付制度を申し込む際の必要書類
契約者貸付制度を申し込むときは、申請書のほかに本人確認書類等の必要書類の添付や提示を求められます。申請時の必要書類として、次のものが挙げられます。
- 健康保険証
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード
- 保険証券
- 振込先の口座番号
店頭窓口や郵送で手続きをする場合、印鑑が必要なこともあるので、前もって用意しておきましょう。
まとめ
ここでは、契約者貸付制度の概要やメリットデメリット、制度を利用して借入する際の流れや必要書類について説明しました。
病気やケガを負ったときの経済的な負担をカバーできるだけでなく、急にお金が必要になったときの借入もできるというのは、契約者貸付制度がある生命保険ならではのメリットです。賢く生命保険を活用するには、こうした制度があることを知るとともに、いざというときに円滑に手続きを進められるようにしておくことが大切です。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。