「生命保険に加入したいけれども、保障額はいくら必要なのだろうか」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
生命保険の保険金額を決めるときは、亡くなったあとに残された家族が必要となるお金から入ってくるお金を差し引き、必要保障額を算出することが大切です。
この記事では、生命保険を検討するときに知っておきたい必要保障額の計算方法や、生命保険の種類などをわかりやすく解説します。
生命保険の必要保障額の計算方法
生命保険の死亡保険金額は、亡くなったときの必要保障額をもとに算出します。必要保障額とは、亡くなったときの支出見込額から収入見込額を差し引いた金額です。
- 必要保障額=支出見込額-収入見込額
支出見込額とは、残された家族の生活費や子供の教育費、住居費用などです。また、ご自身の葬儀費用やお墓の購入費用も含まれます。
収入見込額は、残された家族が受け取れる遺族年金の額や死亡退職金、配偶者の就労収入などの合計金額です。
残された家族の支出見込額
残された家族の支出見込額については、以下の通りです。
家族の生活費 | ・残された配偶者や子供などの生活費 ・子供の生活費は独立するまでの必要額 |
子供の教育費 ※子供がいる場合 | ・授業料や入学金、下宿費用など |
住居費用 | ・賃貸物件:家賃・共益費など ・持ち家(マンション):管理費・修繕積立金など ・持ち家(戸建て住宅):修繕費用・リフォーム費用など |
葬儀費用・お墓代など | ・葬儀費用・飲食費・返礼品 ・墓地使用料・墓石代 ・遺品の整理費用 |
上記の他にも、子供の結婚援助資金や相続税の納税資金、想定外の支出に備えた予備費などを亡くなったあとの支出見込額に加えることもあります
それでは、支出見込額の計算方法や考え方などを詳しく見ていきましょう。
残された家族の生活費
残された家族の生活費の計算方法や考え方は、家族構成によって異なります。たとえば、残された家族が専業主婦(夫)の配偶者と、未成年の子供である場合、以下の方法で生活費を計算するのが一般的です。
- 末の子供が独立するまで:現在の生活費×70%
- 末の子供の独立後〜配偶者が平均寿命を迎えるまで:現在の生活費×50%
共働き世帯であっても、生命保険が不要であるとは限りません。夫婦のどちらかに万一のことがあると、世帯収入が低下して生活が苦しくなることがあるためです。たとえ配偶者だけの収入で生活できるとしても、ベビーシッター代や家事の外注費用、外食費の増加などを想定して生命保険に加入する方は少なくありません。
残された家族が専業主婦(夫)のみである場合、仕事に就けるまでの生活費を生命保険で備えておくのも1つの方法です。特に残された配偶者の再就職が困難であると想定される場合は、当面の生活費を生命保険で準備しておくと安心でしょう。
子供の教育(※子供がいる場合)
子供がいる場合は、授業料や入学金などの教育費に備える必要があります。文部科学省の調査によると、幼稚園から高校までの教育費(授業料・教科書代・給食費・家庭教師への月謝など)は、公立校と私立校で以下のように異なります。
公立 | 私立 | |
幼稚園(3〜5歳) | 約65万円 | 約158万円 |
小学校(第1〜第6学年) | 約194万円 | 約959万円 |
中学校(第1〜第3学年) | 約146万円 | 約422万円 |
高等学校(第1〜第3学年) | 約137万円 | 約290万円 |
合計 | 約542万円 | 約1,829万円 |
※出典:文部科学省「平成30年度子供の学習費調査」
※高等学校は全日制の金額
※千円単位で四捨五入
調査結果をみると、幼稚園から高校まですべて公立校に通ったとしても500万円を超える教育費がかかります。また、すべて私立校に通ったときの教育費は、1,800万円超と非常に高額です。
ただし上記の調査結果は、幼児教育や保育、私立高等学校の授業料が無償化される前のものであるため、実際は少なく済む可能性があります。しかし、すべての教育費が無償化されたわけではないため、高校の卒業までに多額の教育費がかかる可能性があることに変わりはありません。
次に、大学の入学費用や在学費用を見ていきましょう。
国公立大学 | 私立大学 | |
入学費用 (受験費用・入学金など) | 約77万円 | 文系:約95万円 理系:約94万円 |
在学費用(4年間) (授業料・通学費・教科書代など) | 約460万円 | 文系:約608万円 理系:約769万円 |
合計 | 約537万円 | 文系:約704万円 理系:約863万円 |
※出典:日本政策金融公庫「教育費に関する調査結果(2020年10月30日発表)」
※千円単位で四捨五入
親元を離れて大学に通う場合、上記の金額に加えて仕送りや下宿先アパートの家賃、敷金・礼金などの支払いが発生します。
子供の教育費は、進学ルートによって1,000万円以内で済むこともあれば、2,000万円以上かかることもあります。残された子供が、どのような進学ルートをたどるのか考えたうえで、教育費の見込額を計算することが大切です。
住居費用
亡くなったあとの住居費用は、賃貸と持ち家のどちらに住むかで異なります。また持ち家の場合、マンションと戸建て住宅でかかる費用に違いがあります。
賃貸マンションや賃貸アパートに住んでいる場合は、引き続き家賃や共益胃などを支払っていかなければなりません。
住宅ローンを組んで持ち家を購入した場合「団体信用生命保険」に加入していれば、亡くなったときに保険金でローンが完済されます。しかし、固定資産税や都市計画税は、生前と同様に支払っていく必要があります。また団体信用生命保険に加入しなかった場合、残された家族は引き続きローンを返済していかなければなりません。
持ち家がマンションである場合は、管理費や修繕積立金、駐車場などの支払いが発生します。戸建て住宅では、将来的に必要となる修繕費用やリフォーム費用を考える必要があるでしょう。
一方で、亡くなったあとは配偶者の実家に戻るのであれば、生命保険で住居費用を備える必要性はないと考えられます。亡くなったあとの配偶者や子供の生活を、考えたり家族で相談したりしたうえで、生命保険で備える住居費用を計算しましょう。
葬儀費用・お墓代・遺品の整理資金
亡くなった人の葬儀費用やお墓代、遺品の整理費用なども生命保険に加入して備えるのが一般的です。
葬儀費用の平均額は、飲食費や返礼品なども合わせると約184万円です。一方で、参列者から受け取った香典の合計は約71万円であるため、葬儀の自己負担は約113万円となります。
※出典:株式会社鎌倉新書「お葬式に関する全国調査(2020年)」
また、お墓の購入費用は、平均で169万円です。
※出典:株式会社 鎌倉新書「【第12回】お墓の消費者全国実態調査(2021年)」
葬儀費用とお墓の購入費用を合わせると、約282万円となります。遺品の整理費用も考えると、約300万円が一つの目安といえます。
残された家族の収入見込額
残された家族の収入見込額は、以下をもとに計算します。
公的保障 | ・遺族基礎年金・遺族厚生年金 ・老齢年金 |
企業保障 | ・死亡退職金 ・弔慰金 |
自己資産 | ・預貯金 ・有価証券(株式・投資信託など) ・売却可能な資産 |
配偶者の就労収入・退職金 ※配偶者がいる場合 | ・退職するまでの手取り収入 ・退職時に受け取る退職金 |
死亡退職金と弔慰金は、どちらも会社勤めの人が亡くなったとき、残された家族に支給されるお金です。支給の有無や支給額などは勤務先によって異なるため、就業規則や退職金規定などを確認してみましょう。
ここでは、支出見込額のうち公的保障である遺族年金と老齢年金について解説します。
遺族年金
遺族年金は、亡くなった人に要件を満たす遺族がいる場合に支給される年金です。遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった人が加入していた公的年金の種類によって支給される年金の種類が異なります。
公的年金 | 加入者の例 | 遺族が受け取れる年金 |
国民年金 | 自営業・フリーランス 専業主婦(夫)など | 遺族基礎年金 |
厚生年金 | 会社員 公務員など | 遺族基礎年金 + 遺族厚生年金 |
遺族基礎年金は、遺族が「子供のいる妻」または「子供」でなければ支給されません。また、18歳に到達する年度の末日(3月31日)までの子供が受給対象です。(障害等級1,2級の状態にある場合は20歳)
遺族厚生年金は、子供がいなくても支給されますが「夫が受給できるのは55歳以上の場合」「妻が30歳未満の場合、受給期間は5年間」などの制限があります。
遺族基礎年金の受給額は「780,900円+子の加算額」で決まります。子の加算額は、1人目と2人目は各224,700円、3人目以降は各74,900円です。※2021年4月以降の額
遺族厚生年金の受給額は、亡くなった人の平均収入や厚生年金の加入期間などで決まります。また、受け取る人が亡くなった人の妻であり、遺族基礎年金を受給できない場合、65歳になるまで「中高齢寡婦加算」として年金額に585,700円が加算されます。
老齢年金
残された配偶者が国民年金に加入している場合、原則として65歳から「老齢基礎年金」を受給できます。厚生年金に加入している場合は、老齢基礎年金とあわせて「老齢厚生年金」も受給が可能です。
ただし老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方を受給する権利がある場合、老齢厚生年金が支給されます。ただし、遺族厚生年金のほうが老齢厚生年金よりも高い場合、差額を受け取ることが可能です。老齢厚生年金のほうが高い場合、遺族厚生年金は支給停止となります。
生命保険の必要保障額をシミュレーション
ここでは、以下のモデルケースを用いて、夫が亡くなったときの必要保障額をシミュレーションします。
◯家族構成・生活状況など
- 夫:36歳・会社員・年収450万円・死亡退職金300万円
- 妻:32歳・会社員・年収300万円(手取り240万円)・定年退職金1,000万円
- 子供:長女4歳・長男2歳
- 毎月の生活費:32万円
- 住居費(月額):8万円(賃貸住宅)※共益費込み
- 自己資産:600万円
夫が亡くなったあとの支出見込額と収入見込額は、次の通りです。
◯亡くなったあとの支出見込額
- 生活費(末子が独立するまで):5,645万円
- 生活費(末子の独立後)6,912万円
- 子供の教育費:2,100万円
- 住居費用:8,512万円
- 葬儀費用・遺品の整理費用:300万円
- 予備費:200万円
- 合計:20,629万円
※妻は引き続き賃貸物件に住み、女性の平均寿命88歳まで生きる
※子供は2人とも幼稚園から大学まで国公立に進学し22歳で独立する
◯亡くなったあとの収入見込額
- 公的保障(遺族年金・老齢年金):7,884万円
- 死亡退職金:300万円
- 自己資産:600万円
- 妻の就労収入:6,960万円
- 妻の退職金:1,000万円
- 合計:16,744万円
※妻は60歳で定年を迎え、それまで収入の増減はないものとする
※妻は65歳以降、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給するものとする
◯必要保障額
- 支出見込額20,629万円-収入見込額16,744万円=3,885万円
よってモデルケースの夫が生命保険に加入する場合、死亡保険金額は3,885万円を目安に設定すると良いと考えられます。
生命保険の必要保障額は定期的に見直す
生命保険は、一度加入したら終わりではありません。住宅の購入や子供の独立など、ライフステージの変化にともなって必要保障額も変わるためです。
ここでは、生命保険の死亡保障額を見直す代表的なタイミングを説明していきます。
結婚したとき
結婚は、夫婦が加入している生命保険の保障を見直すきっかけの1つです。万一のことがあったとき、パートナーが生活に困るおそれがある場合は、死亡保障を手厚くしておくと良いでしょう。
子供が生まれたとき
子供が生まれると、一般的に必要保障額は増えます。万一のことがあったあとの支出に、子供の教育費や生活費などが加わるためです。そのため多くの世帯は、子供が生まれたタイミングで生命保険への新規加入や死亡保障の増額を検討します。
住宅を購入したとき
住宅を購入する方の多くは、住宅ローンを組みます。住宅ローンを組む場合、団体信用生命保険に加入するのが一般的です。
団体信用生命保険に加入すると、返済する人が亡くなったときにローンが保険金で完済されます。賃貸住宅に住んでいたときよりも、生命保険で賄うべき住居費用が少なくてすむのであれば、死亡保障を減額できないか検討すると良いでしょう。
子供が成長・独立したとき
子供が成長・進学していくと、独立するまでの年数が短くなるため、万一のときに必要な生活費や教育費は減少していきます。そのため生命保険の死亡保険金額は、子供の成長にあわせて減額するのが望ましいといわれています。
子供が独立したあとは、子供の生活費や教育費などを生命保険で備える必要がなくなるため、死亡保障を減額するのが一般的です。
万一に備えられる生命保険の種類
必要保障額の目星がついたら、加入する生命保険を選びましょう。ここでは、万一に備えられる生命保険を3種類紹介します。
定期保険
定期保険とは、保険期間(保障を得られる期間)が一定である生命保険です。保険期間中に亡くなったり所定の高度障害状態になったりすると、死亡・高度障害保険金が一括で支払われます。ご自身の葬儀費用から残された家族の生活費まで、幅広く備えられる生命保険といえるでしょう。
保険期間は、55歳までや60歳までなど年齢を基準に設定する「歳満了」と、10年や20年などの一定期間に設定する「歳満了」から選べます。子供が独立するまでや、自分自身が退職するまでなど、必要な期間にしぼって死亡保障を準備できます。
定期保険は、保険期間の途中で解約しても、解約返戻金は支払われないかあってもごくわずかです。一方で保険料は、終身保険よりも割安に設定されています。
終身保険
終身保険とは、途中で解約しない限り一生涯にわたって死亡・高度障害保障が続く生命保険です。葬儀費用やお墓代など、家族構成にかかわらず発生する万一の支出に備える目的で終身保険に加入する方は少なくありません。
また終身保険は、契約してから一定期間が経過してから解約すると、支払った保険料以上の解約返戻金を受け取れる場合があるため、資産形成にも活用が可能です。ただし解約するタイミングによっては、受け取った解約返戻金の額が払い込んだ保険料の総額を下回る「元本割れ」となることもあります。
保険料の払込期間は、一定の年齢または期間を指定する「有期払い」と、一生涯にわたって払い続ける「終身払い」の2種類から選択します。
収入保障保険
収入保障保険は、保険期間内に亡くなったり所定の高度障害状態になったりすると、保険期間が満了するまで一定額の年金が支払われる保険です。保険期間は、定期保険と同様に「60歳まで」「20年間」などの一定期間となります。
収入保障保険は、保険金が年金形式で支払われるため、残された家族は受け取った保険金を計画的に生活費や教育費に充てられます。
また保険期間の経過とともに年金の受取総額が減っていく仕組みであるため、定期保険よりも保険料が割安なだけでなく、子供の成長にあわせて見直しをする機会を減らせるのも収入保障保険のメリットです。
収入保障保険は、保険金を一括で受け取ることも可能です。ただし一括受取時の保険金額は、年金形式で受け取ったときの総額よりも少なくなります。
まとめ
生命保険を検討する際の必要保障額は、亡くなったあとの支出見込額から、収入見込額を差し引いて計算します。支出見込額と収入見込額は、それぞれ以下の通りです。
支出見込額 | 収入見込額 |
・家族の生活費 ・子供の教育費 ・住居費用 ・葬儀費用・お墓代 など | ・公的保障:遺族年金・老齢年金 ・企業保障:死亡退職金・弔慰金 ・自己資産:預貯金・株式・投資信託 ・配偶者の就労収入・退職金 など |
生命保険の加入を検討するときや、保険金額を設定するときは必要保障額を計算することが大切です。とはいえ、必要保障額を計算するためには、残された家族の生活費や遺族年金の額などを計算しなければならないため、専門的な知識が求められます。
そこで生命保険の加入や見直しを考えている方は、保険会社や保険代理店の担当者やファイナンシャルプランナーに相談してみてはいかがでしょうか。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。