祖父母や両親が亡くなり相続が発生すると、相続人の数によっては誰がどの財産をどれくらい引き継ぐのかを決める必要性が出てきます。

しかし、相続人同士の関係性や相続する財産の種類や程度によっては、遺産の分け方について意見がまとまらずトラブルに発展することもあります。

相続できる財産には、「遺留分」といって法律によって規定されている部分があります。生命保険の死亡保険金は、原則として遺留分に含まれませんが、そうでないケースもあるため、相続時のトラブルを防ぐためには、生命保険の保険金と遺留分の関係性を把握しておくことが大切です。

本記事では、生命保険が遺留分の対象になるケースやならないケース、遺留分の計算方法について説明します。

相続財産の遺留分とは?

相続財産の遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に対して法律で決められている遺産の取り分のことです。

遺言で特定の相続人にすべて、またはほとんどの財産を相続する意思を表明する場合があります。しかし、遺言の存在によって、遺留分にも満たない財産しか受け取れない相続人は、遺留分侵害額請求ができます。

遺留分侵害額請求をすることで、ほかの相続人や第三者から遺留分に相当する金銭を支払ってもらえるため、祖父母や両親、配偶者などにもしものことがあっても、遺留分を受け取れれば遺族が安定的な生活を送りやすくなります。

遺留分の財産を受け取れる人は、配偶者や子供、被相続人(亡くなった人)の父母や祖父母と定められています。被相続人の兄弟姉妹は遺留分の対象外です。

また、遺留分として受け取れる財産は、相続人によって異なります。たとえば、相続人が配偶者のみであれば遺留分は遺産の1/2ですが、相続人が配偶者と子供1人である場合はそれぞれの遺留分が遺産の1/4ずつになります。

詳しくは後述しますが、相続人の種類や人数によって遺留分が変わることも知っておきましょう。

遺留分に含まれる財産の種類

遺留分として相続人が受け取れる財産は、一般的な相続と同様に現金や有価証券、不動産や自動車など、被相続人が相続開始時に所有していた資産です。被相続人が相続開始前の1年間で贈与した財産も、相続があったとみなされるため遺留分の対象になります。

また、結婚資金や子供の教育資金といった理由で被相続人が生前に贈与をおこなった場合、その財産は「特別受益」とみなされる可能性があります。

特別受益に該当する財産が贈与されていると、相続開始前の10年間に発生した生前贈与が遺留分の対象になるため、遺留分を計算する際に考慮しなければなりません。

生命保険は原則遺留分の対象外

生命保険の死亡保険金は原則として遺留分の対象外です。これは、死亡保険金が受取人固有の財産とみなされるからです。

たとえば、生命保険の被保険者が夫で受取人が配偶者の場合、夫が死亡したときに妻が受け取る死亡保険金は妻固有の財産とみなされ遺留分の対象外になります。

そのため、受取人以外の相続人は、死亡保険金を除いた相続財産から遺留分を計算しなければなりません。

受取人の指定が「相続人」のときはどうなる?

死亡保険金の受取人を「相続人」と指定している場合、相続人のうち誰がお金を受け取るべきか曖昧になってしまいます。相続人が1人であればその人の固有の財産とみなされますが、相続人が複数人いるとトラブルに発展しかねません。

このようなケースでは、死亡保険金は相続人全員の固有財産として扱われます。つまり、保険会社から受け取るお金は相続財産として遺留分を計算するのではなく、法律で定められた割合を各相続人が受け取ることになります。

受取人の指定が無いときはどうなる?

そもそも生命保険の受取人が指定されていない場合、死亡保険金を本人が受け取るのか相続人が受け取るのか判断できません。この場合、保険会社から受け取る保険金の取り扱いは、保険についてのルールが定められている約款(やっかん)に従うことになります。

一般的に、被相続人が生命保険の受取人を指定していない場合、「被保険者の法定相続人を受取人にする」と約款で定められているケースが多いです。そのときは、死亡保険金や解約返戻金は法定相続人固有の財産となるため、相続財産に含まれず遺留分の対象になりません。

遺留分に算定される可能性がある「特別受益」とは?

相続が発生する前の10年間で、結婚資金や教育資金などでまとまったお金が生前贈与された場合、その財産は「特別受益」とみなされる可能性があります。

これは、特定の相続人が被相続人から受け取った財産と、ほかの相続人が受け取る財産に著しい不均衡が生じないようにするために設けられている仕組みです。

生命保険においても、相続人が過去に贈与された保険金によっては特別受益とみなされ、その財産は遺留分の対象になる可能性があります。

生命保険は特別受益を持ち戻し免除できる

相続人が受け取る死亡保険金や解約返戻金が特別受益とみなされた場合、そのお金は原則ほかの相続財産と合計して遺留分を計算することになります。

これを、「特別受益の持ち戻し」と言います。しかし、遺贈や贈与には「特別受益の持ち戻し免除」という仕組みがあり、これを活用すると特別受益を相続財産に含めずに遺留分を計算できるようになります。

そのため、相続財産よりも死亡保険金額が大幅に上回るケースでも、被相続人が遺言で特別受益を持ち戻し免除する意思表示をしていれば、相続財産に含めずに遺留分を計算することが可能です。

ただし、特別受益の持ち戻し免除をしても、特定の相続人が受け取る死亡保険金額や解約返戻金額がほかの相続人が受け取る財産と比べてあまりにも多いと、遺留分が侵害されたぶんの金額を請求される場合があります。

生命保険が遺留分の対象になる可能性があるケース

原則として遺留分の対象外になる生命保険ですが、遺留分の対象になる可能性があるケースとして次の2つが挙げられます。

  • 受け取る相続財産が著しく不公平な場合
  • 保険金の受取人が被相続人となっていた場合

受け取る相続財産が著しく不公平な場合

先述したように、特定の相続人に贈与または相続される保険金額や解約返戻金額によっては、ほかの相続人と不均衡が生じるため「特別受益」とみなされる可能性があります。

特別受益は遺留分の対象とみなされるため、法律に則って相続人同士で財産を分割することになります。

たとえば、父親が亡くなって、死亡保険金の受取人である長男が3億円受け取り、次男は300万円を相続する場合、受け取る相続財産に不均衡が生じていると考えられる可能性があります。

不均衡であると認められる差額は、ケースバイケースですので、一概には言えません。トラブルを防ぐためには、生命保険に加入する際に著しい不公平が生じないように保険金額や解約返戻金額などを設定することが大切です。

保険金の受取人が被相続人となっていた場合

生命保険の契約者および受取人が被相続人であった場合、保険金は被相続人のもとなるため、相続財産に含まれます。

たとえば、契約者を夫、被保険者を妻、受取人を夫としていた場合、夫が死亡しても被保険者が死亡したわけではないため、夫の相続人全員の共有財産として保険契約が継続します。つまり、夫の固有財産となるため、解約返戻金の相当額が相続財産として評価されます。

生命保険を含めた遺留分の計算方法

相続人同士のトラブルを抑えて相続手続きを進めるには、遺留分の計算方法を知っておく必要があります。

まず一般的な相続財産の遺留分を計算する方法を見てみましょう。

  • 遺留分=相続財産×法定相続分×遺留分の割合

法定相続分と遺留分の割合は、次のとおりです。

【法定相続分】

相続人法定相続分
配偶者のみ・配偶者:遺産のすべて
子供のみ・子供:遺産のすべて(2人であれば1/2、3人であれば1/3ずつ)
配偶者と子供・配偶者:遺産の1/2
・子供:遺産の1/2(2人であれば1/4、3人であれば1/6ずつ)
親のみ
親のみ・親:遺産のすべて(両親であれば1/2ずつ)
兄弟姉妹のみ・兄弟姉妹:遺産のすべて(2人であれば1/2、3人であれば1/3ずつ)
配偶者と親・配偶者:遺産の2/3
・親:遺産の1/3(両親であれば1/6ずつ)
配偶者と兄弟姉妹・配偶者:遺産の3/4
・兄弟姉妹:遺産の1/4(2人であれば1/8、3人であれば1/12ずつ)

【遺留分】

相続人遺留分
配偶者のみ・配偶者:遺産の1/2
親のみ・親:遺産の1/3(両親であれば1/6ずつ)
子供のみ・子供:遺産の1/2(2人であれば1/4ずつ、3人であれば1/6ずつ)
配偶者と親・配偶者:遺産の1/3
・親:遺産の1/6(両親であれば1/12ずつ)
配偶者と子供・配偶者:遺産の1/4
・子供:遺産の1/4(2人であれば1/8ずつ、3人であれば1/12ずつ)

また、死亡保険金を持ち戻し、特別受益として遺留分を計算する方法は次のとおりです。

  • 遺留分=(相続財産+死亡保険金額)×法定相続分×遺留分の割合

実際に受け取った相続財産がここで計算した遺留分より少ない場合、遺留分よりも多く財産を受け取った相続人に対して差額(遺留分侵害額)を請求できます。

ただし、遺留分侵害額を請求できるのは、被相続人が死亡したのを認知してから1年または相続が発生してから10年という時効があります。時効を過ぎると本来受け取れたはずの遺産の取り分をもらえなくなるため、早めに請求することが大切です。

まとめ

法律では、相続人同士が受け取る財産に不均衡を生じさせないよう、遺留分という仕組みが設けられています。生命保険は原則として遺留分の対象にはなりません。

ただし、死亡保険金の受取人が被相続人に指定されていたり、特定の相続人に大きく偏った財産が相続されたりすると、遺留分の計算対象になる場合があります。

また、特定の相続人に死亡保険金を遺したい場合は、特別受益の持ち戻し免除の意思表示をするのも選択肢です。持ち戻し免除の意思表示をすることで、相続財産の計算から生命保険の死亡保険金が除外されます。

ただし、死亡保険金の金額によっては、ほかの相続人から遺留分侵害額が請求される可能性があります。円満に相続を終えるためにも、こうした事態を想定して生命保険を用意する必要があります。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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