さまざまな事情で十分な収入が得られず生活が苦しくなった場合、生活保護の申請をして通れば国や自治体から経済的な支援を受けられる可能性があります。
しかし、生活保護で受けられる経済的な支援の程度は、その人の状況によって変わるだけでなく上限額が定められているため、場合によっては自由にお金を使えなくなります。
生活保護を受給する人によっては、生命保険に加入しようと思っても将来の備えを用意できなくなる場合があります。
本記事では、生活保護と生命保険の関係や生活保護を受けていても生命保険を用意できるケース、生活保護受給中に生命保険に加入する際の注意点について説明します。
生活保護を受給すると原則生命保険に加入できない
生活保護を受けている人は、原則として生命保険に加入できません。これは、生活保護費が国民から集めた税金でまかなわれているからです。
生命保険の種類によっては、その人が所有する資産とみなされる場合があります。人々が納めた税金で資産形成すると、個人の資産形成のために人々が納めた税金が用いられる可能性があります。こうした事態が生じるのを防ぐためにも、生活保護受給者に対して生命保険の加入制限が設けられています。
解約を求められる可能性がある生命保険の種類
生活保護を受けている人は原則生命保険に加入できないため、すでに生命保険に加入している人が生活保護を受けることになった場合は解約を求められる可能性があります。
貯蓄性のある生命保険
生活保護を受ける人は原則として一定以上の資産を保有できないため、生命保険の中でも貯蓄性のあるものは解約を求められる可能性があります。貯蓄性のある生命保険には、次のものが該当します。
- 養老保険
- 個人年金保険
- 終身保険
- 学資保険
これらは、不測の事態に備えつつ将来大きなお金を受け取れる可能性がある生命保険です。場合によっては、満期に達した時に受け取れる満期金や学資金などが支払った保険料の総額を上回ることもあります。
生活保護を受給する際に貯蓄性のある生命保険に加入していることがわかると、解約を求められる可能性があります。
保険料が高い生命保険
生活保護を受ける際に保険料が高い生命保険に加入していると、解約を求められる可能性があります。高額な保険料を負担できる余裕があるのであれば、それを解約して生活費に回したほうが良いと考えられやすいからです。
どれくらいの保険料が高額とみなされるかは自治体によって異なります。居住エリアによっては、上限額を厳しく設定している場合があります。
一定額以上の解約返戻金がある生命保険
生命保険を解約する際に受け取れる「解約返戻金」が一定額以上であると、生活保護を受けるときに解約を求められる可能性があります。これは、ある程度まとまった解約返戻金を受け取れば、生活資金を受け取ったとみなされやすいからです。
保険料と同様に、解約を求められる解約返戻金額は自治体によって異なります。もし解約返戻金額が理由で解約を求められた場合は、生命保険を解約して解約返戻金を生活資金に充て、それでも生活が困窮したときに再度生活保護を申請することになります。
また、解約返戻金額は、次の条件によって変化します。
- 加入している生命保険の種類
- これまで払い込んだ保険料
- 生命保険の加入期間
生活保護を申請する際は、保険会社から定期的に自宅に送付される書類を確認するか、直接保険会社に問い合わせて確認しておきましょう。
生活保護を受けていても生命保険に加入できるケース
原則生活保護を受ける人は生命保険に加入できませんが、次のケースでは生命保険に加入できる場合があります。
- 貯蓄目的でない掛け捨て型の生命保険を選ぶ場合
- 解約返戻金が一定以下の場合
以下では、これらのケースについて詳しく説明します。
貯蓄目的でない掛け捨て型の生命保険を選ぶ場合
生活保護を受ける人が貯蓄性のある生命保険に加入していると、解約を求められる可能性があります。しかし、加入する生命保険が貯蓄目的でなければ、備えを用意できる場合があります。
貯蓄目的と認められにくい生命保険として、あらかじめ保険期間を10年や20年など一定期間に設定する「定期保険」が挙げられるでしょう。
定期保険は、途中で解約しても受け取れるお金がまったくないか、あってもごくわずかであるため貯蓄性はほぼありません。そのため、定期保険であれば、加入を認めてもらえる可能性があるのです。
解約返戻金が一定以下の場合
定期保険以外の生命保険に加入しても、受け取れる解約返戻金額が一定以下であれば生活保護を受けていても備えを用意できる場合があります。それは、受け取る解約返戻金額が少ないと、十分な生活資金を得たとみなされにくいからです。
ただし、受け取る解約返戻金額が少なくても、保険料や保険期間といった条件によっては加入を認めない自治体があるかもしれません。生活保護を受けて生活を維持するためには、生命保険に関する条件をあらかじめ自治体に確認するのが大切です。
生活保護受給者が生命保険の契約を継続する方法
生活保護受給者が生命保険の契約を継続させる方法について詳しく説明します。
生命保険の被保険者として契約する
生命保険の契約者が生活保護を受けると、税金から生活保護費を受給することになるため解約を求められる可能性が高まります。しかし、生活保護を受ける人が被保険者であり、ほかの人が契約者であれば、契約の継続を認めてもらえることがあります。
ただし、契約者が両親や子供、兄弟の場合、生命保険を解約して保険料の支払いに充てていた資金を、生活保護を受ける人の生活費に充てるよう自治体から指導される可能性があります。
生活保護を受ける人に現金を支給すると、そのぶん受け取れる生活保護費が減額されることがあります。
契約者の名義を変更する
自治体によっては、生活保護受給者を生命保険の被保険者に設定しても、解約を求められる場合があります。たとえ契約者を両親や子供、兄弟に設定して加入した生命保険であっても、それらが同一世帯であればさらに解約を求められる可能性が高まります。
その場合、契約者の名義を途中で変更する「名義変更」の手続きをすると、契約を継続できることがあります。たとえば、契約者を同一生計でない祖父母に変更すると、継続を認めてもらえるかもしれません。ただし、自治体によっては名義変更をしても生命保険を解約するよう求められる可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
行政に相談する
生活保護を受ける際に生命保険の解約を求められるかどうかは、保険契約の内容や生活保護を受けることになった理由、自治体の判断などで大きく変わります。
「生命保険に加入しているけれど、解約せずに生活保護を受けられるだろうか」「生活保護を受けているけれど、将来のために備えを用意しておきたい」と考えたときは、福祉事務所やケースワーカーといった生活保護に関する行政の担当者に相談しましょう。
生活保護受給中に生命保険に加入するときの注意点
生命保険に加入するときは、保険会社に職業や年収を申告しなければならないケースがほとんどなので、生活保護を受けている人は加入を断られる可能性があります。これは、契約期間中に保険料の支払いが滞るリスクが高いと考えられやすいからです。
また、生活保護受給中に生命保険に加入している場合、途中で保険金や解約返戻金、満期金などの収入があると必ず自治体に申告しなければなりません。生活保護の受給額は、収入や生活状況などに応じて変化するためです。
保険会社から受け取ったお金を申告しないとどうなる?
では、保険会社から受け取った保険金や解約返戻金などのお金を申告しないとどうなるのでしょうか。
本来申告すべき収入を自治体に申告しないと「生活保護費の不正受給」とみなされる恐れがあります。不正受給と判断されると、これまで受け取った生活保護費を返還しなければなりません。
また、不正受給が悪質だと認められると、罰則が課せられたり告訴されたりして刑事的な責任を負わされる場合もあります。
まとめ
生活保護を受けている人は、原則として生命保険に加入できません。また貯蓄性のある生命保険や保険料が高い生命保険などに加入していると、生活保護を受ける際に解約を求められるケースがあります。
もし生活保護受給中に生命保険に加入する場合は、契約の状況や保険会社から受け取った保険金や解約返戻金などの収入を自治体に正しく申告する必要があります。思わぬペナルティが生じるのを防ぐためにも、自治体に相談しながら備えを用意しましょう。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。