要介護状態になる原因は人それぞれですが、要介護度や介護機関によっては多額の介護費用がかかり家計を強く圧迫することがあります。こうしたリスクに備えるには事前の備えが大切ですが、いったいどれくらいの金額を用意すれば良いのでしょうか?
今回は、介護費用の総額はどれくらいか、どうすれば介護費用の自己負担額を抑えられるか、介護費用を補う民間保険をどう選べば良いかについて説明します。
そもそも介護費用とは?
介護費用とは、要介護度に関わらず介護期間全体を通してかかる費用です。具体例として、介護施設の利用料や自宅に介護用ベッドを設置するときの費用、訪問介護サービスの利用料おむつ代などが挙げられます。
介護サービスによっては公的介護保険を使うことで自己負担額を抑えられますが、公的介護保険が使えないサービスを使うとそれだけ介護費用の負担は増えやすいです。また、介護費用には初期にかかる費用と毎月かかる費用に分けることができ、それぞれがどれくらいの金額になるかによって介護費用の総額が大きく変化します。
介護の初期にかかる費用
介護の初期にかかる費用として、次のものが挙げられます。
- 住宅のリフォーム
- 介護施設の一時金
- 車椅子やベッドの購入
- ポータブルトイレなどの衛生用品の購入
介護生活を始めるには、まず身の回りの環境を整えなければなりません。リフォームの程度が大きければそれだけ介護費用は高くなりますし、入居する施設によっては高額な一時金を支払うケースもあります。
反対に、施設への入居を考えていない場合や自宅をリフォームせずに介護生活を始める場合は、介護費用を抑えやすくなります。介護の初期費用は、要介護状態になる人の希望や家族の介護力、自宅の構造などに大きく影響されるので、人によって差が出やすい部分です。
介護の月額費用
介護生活では、初期費用のほかに月額費用もかかります。たとえば、介護施設や訪問介護の利用料、福祉用具のレンタル料や医療費などが挙げられます。
これらの費用は初期費用よりも安いことがほとんどですが、介護機関によっては支払総額が高くなるため、金銭的に十分な余力がなければ安定的な介護生活を過ごせなくなる場合があります。介護期間は人によって違いますが、長期化することを考えて備えることが大切です。
介護費用の総額は498万円
人によって異なる介護費用ですが、どれくらい用意しておけば良いのでしょうか?
生命保険文化センターによると、介護の初期にかかる費用の平均は69万円、介護の月額費用の平均は7.8万円となっています。また、介護期間の平均が4年7ヵ月であることを考えると介護費用の総額は「498万円」ということになります。
介護度や介護期間、利用するサービスによってはさらに多くの金額が必要になるため、人によってはさらに多くの金額を用意しなければならないでしょう。それほどの金額を用意するのは簡単ではないため、なるべく早い段階から介護費用に備えることが大切です。
介護費用は誰が負担している?
場合によっては多額の費用がかかる介護生活ですが、家庭によって介護費用を負担している人は異なります。厚生労働省が提示している「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」によると、5割以上の人が「介護費用を負担していない(親などが負担している)」と回答しており、介護を受ける人自身が介護費用を負担している割合が多くなっています。
もちろん、両親の介護費用を負担している人もいますが、もしかしたら介護費用を自分自身で負担することになるかもしれません。要介護状態になっても安心できる暮らしを送るには、自分自身で将来の備えを用意しておくのも大切です。
介護費用の自己負担額を抑えるポイント
介護生活を長く安定させるためには、支出を抑えて介護生活を送ることが大切です。介護費用の自己負担額を抑えるポイントとして、次の3つが挙げられます。
- 高額介護合算療養費制度を活用する
- 区分支給限度基準額を把握する
- 介護保険の適用外になるサービスを知っておく
以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。
高額介護合算療養費制度を活用する
高額介護合算療養費制度は、1年間にかかった医療費と介護保険の自己負担額の合計額が、高額療養費などの支給を受けても、なお高額な場合は一定の金額を超えた分が払い戻される制度です。申請すれば自己負担額の一部が返還されるため、結果的に介護費用を軽減することにつながります。
ただし、世帯所得によって自己負担限度額が変わるため、人によっては戻ってくるお金が少なくなる場合があります。年金収入も世帯収入に影響するので、将来受け取る年金額も考えながら備えを用意しましょう。
区分支給限度基準額を把握する
区分支給限度額は、介護保険から支給されるお金の限度額のことです。支給限度額は要支援1から要介護5までの介護区分ごとに分けられており、介護区分が高いほど高額に設定されています。区分支給限度額の範囲内であれば、介護サービス利用者の自己負担額が軽減されます。
ただし、給与や年金などである程度の収入がある人は、自己負担割合が増えてしまうので注意が必要です。介護サービスの自己負担割合は1割ですが、一定以上の所得があると自己負担割合が高くなる(最大3割)になるので、結果的に介護費用の支払総額が増える場合があります。
介護保険の適用外になるサービスを知っておく
多くの介護サービスは、介護保険が適用されるため自己負担額を抑えられるようになっています。しかし、介護サービスによっては介護保険の適用外になるものがあるため、利用するサービスを正しく見極める必要があります。
介護保険の適用外のサービスとして、次のものが挙げられます。
- 訪問理美容サービス
- 配食サービス
- 送迎サービス
- 緊急通報システム
- おむつ配送サービス
- 寝具洗浄サービス
これらのサービスが利用金額を全額自己負担しなければならないので、利用頻度によっては介護費用が高額になるかもしれません。介護保険外のサービス利用を考えているのであれば、それだけ多くの介護費用を用意する必要があるので、サービスごとに介護保険が適用されるかどうかを把握しておきましょう。
介護費用の不安を抑えるポイント
将来どのような介護サービスが必要になり、どれくらいの期間利用するのかを想像するのは簡単ではないため、「十分な介護費用を用意できるか心配」と思う人も多いでしょう。介護費用の不安を抑えるポイントとして、次の3つが考えられます。
- 家計を見直す
- 老後の収入を把握しておく
- 生命保険に加入する
以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。
家計を見直す
介護費用の不安を抑えるには、ある程度の金銭的な蓄えが必要です。短期間で必要な介護費用を用意するのは難しいですが、家計を見直してコツコツと預貯金などを蓄えれば、介護費用を用意しやすくなります。
たとえば、ムダな支出が続いていないか、節約できそうな部分は無いかを定期的にチェックすれば、預貯金などに回せるお金を増やせるかもしれません。また、住宅ローンや自動車ローンなどを前倒しすれば、利息の負担を抑えやすくなるでしょう。無理に支出を切り詰めると生活が苦しくなったりストレスが溜まったりするので、可能な範囲で家計を見直しましょう。
老後の収入を把握しておく
家計を見直すだけでなく、老後の収入を把握することも不安の軽減につながります。「将来年金がいくらもらえるか分からない」という人もいるかもしれませんが、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」をチェックすれば、将来の年金額を確認したり収入に応じた年金額を試算したりできるので利用してみましょう。
また、退職金を把握したり退職後の継続雇用を検討したりすることも、老後の収入を考えるうえで重要です。確定拠出年金を活用すれば、半強制的にお金を貯めて老後に受け取れるお金を増やすことにつながるので、利用を検討すると良いでしょう。
生命保険に加入する
生命保険によっては、介護費用をまかなえるものもあります。たとえば、医療保険に加入すれば、病気やケガで入院した場合のかかる医療費の補てんになります。。養老保険に加入すれば、もしものときに必要になるお金を用意しつつ、満期に達すればまとまったお金を受け取れるので、介護費用に備えることが可能です。
また、保険会社によっては、将来生じる介護費用に特化した備えを提供しているところもあります。詳しくは後述しますが、「介護費用に限定して備えを用意したい」という人は民間の介護保険に加入するのがおすすめです。
介護費用を補う民間の介護保険の選び方
生命保険会社が提供している介護保険は、認知症や寝たきりなどの要介護状態になったときに所定の給付金を受け取れるのが特徴で、介護を受ける人本人やその家族の経済的な負担を軽減することが可能です。
また、要介護度に応じて支給される給付金額が変わるところもあれば、要介護状態と認められた時点で一律の金額を支給するところもあるなど、保険会社ごとにルールが異なるのも特徴です。介護費用を適切に備えるためにも、民間の介護保険の選び方を知っておきましょう。
保障期間が長いものを選ぶ
民間の介護保険は、保険会社によって保障期間が異なるため、必要な介護期間をカバーできるものに加入することが大切です。たとえば、保障期間が10年のものよりも20年のものに加入したほうが、より長く要介護状態に備えられます。
また、「80歳まで保障」のように、具体的な年齢を満期に設定しているものを選べば、長く備えられるだけでなく保障期間を覚えやすくなります。保険料は高くなりがちですが、終身タイプを選べば要介護状態に一生涯備えられるので、安心して老後の生活を送れるでしょう。
給付条件を確認する
要介護状態になっても、保険会社が定める条件を満たさなければ給付金を受け取れない場合があるので注意が必要です。
具体的な給付条件として、「公的介護保険連動型」と「独自型」の2つのタイプがあります。公的介護保険連動型は、公的介護保険で認定された要介護度に応じて給付金を受け取れるタイプで、給付条件がはっきりしているのが特徴です。
一方、独自型は、「日常生活動作をおける要介護状態が180日以上継続したと医師によって診断されたとき」「認知症による要介護状態が90日以上継続したと医師によって診断されたとき」など、要介護度に関わらず保険会社が定める条件を満たすことで給付金を受け取れるのが特徴です。保険会社の商品ごとに給付の条件が違うので、場合によっては公的介護保険の認定を待つ必要がなく給付金を受け取れます。
いざというときに給付金が受け取れないと、必要なタイミングで介護費用をまかなえなくなってしまうので、加入前に給付条件を確認しましょう。
解約返戻金を受け取れるかどうかで選ぶ
民間の介護保険に加入しても、さまざまな原因で途中解約を検討する場合があります。その際、貯蓄性のある介護保険であれば、解約時にお金(解約返戻金)を受け取れる可能性があるため、老後の生活資金などに充てやすくなります。
一方、掛け捨てタイプの介護保険は、貯蓄性のある介護保険よりも保険料を抑えやすいものの、解約返戻金が戻ってこないものが多いです。保険料が安いと家計の負担を抑えつつ保障を継続させやすいですが、解約時にお金が戻ってこない可能性が高いため、慎重にプランを選ばなければなりません。
まとめ
ここでは、介護費用の総額や費用負担を抑える方法、介護費用の不安を抑えるポイントや民間の介護保険の選び方について説明しました。
介護費用の総額は人それぞれですが、自分自身でまかなう可能性があることを考えると、早いうちに備え始めることが大切です。自己資金だけで介護費用を補えないようであれば、民間の介護保険への加入も検討しましょう。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。