介護が必要になってもなるべく自立した暮らしを続けるには、体の状態に適した介護サービスを選ぶ必要があります。しかし、国が運営する介護保険制度では、要介護度に応じて給付の上限額が決められているため、予算を考えながらサービスを選ばなければなりません。
体の状態と経済的な負担を考えてサービスを選ぶには、要介護度ごとの特徴を知る必要があります。今回は、要介護度で最も低い「要介護1」に焦点を当てて、心身の状態や給付限度額、利用できるサービスの具体例を説明します。
要支援と要介護の違いを知ろう
要介護1の状態を説明する前に、まず要介護状態になる前段階とも言える「要支援」の特徴や要介護との違いについて見ていきましょう。
要支援とは?
要支援とは、「認定を受けた時点では介護が必要ないが、将来的に介護が必要になる可能性がある状態」を指します。体や精神状態に障害があり、原則6ヵ月以上の支援が必要だと判断されれば、「要支援1」または「要支援2」と判定されます。
要支援1は「社会的な支援を必要とする状態」で、食事や排泄といった基本的な動作はほとんど自分でできるものの、部屋の掃除や身の回りの世話の一部に見守りや軽度の介助が必要な状態です。
一方、要支援2は、「生活に支援が必要な状態」で、要支援1よりも日常生活をおこなう動作がわずかに低下しており、何らかの支援が必要な状態を指します。
要介護とは?
要介護とは、「体や精神の障害によって、食事や排泄、清潔や着替えといった日常生活の全部または一部に、6ヵ月以上継続して常時介護が必要な状態」です。
要介護状態は1~5に分けられており、状態が悪化するほど介護度は高くなります。
要介護1はどのような状態?
要介護1と判定される目安として、次の状態が挙げられます。
- 部屋の掃除や着替えなどに見守りや軽度の手助けが必要
- 歩行や両足での立位保持に支えが必要
- 理解力の低下や混乱が見られる
- 立ち上がり動作や片足での立位保持など複雑な動作に何らかの支えを必要とする
- 食事や排泄等の基本的な動作はほぼ自立している
要介護度は、介護を受ける人の心身の状態や生活環境、介護量や主治医の意見など、さまざまな要因によって決められるので明確に定義できません。
しかし、ある程度の目安を知っておくと、どのような状態で介護が必要になるかイメージしやすいでしょう。
要支援2と要介護1の違い
要介護1の前段階は要支援2ですが、要支援と要介護では利用できる介護サービスや介護保険からの給付額に大きな差が出ます。
介護予防サービスにより状態の維持や改善が見込まれるか
生命保険文化センターが出版している、介護保障ガイドでは、要支援2と要介護1の身体の状態の例として、「生活の一部について部分的に介護を必要とする状態」と記載されています。
つまり、食事や排泄などときどき介助が必要な場合があり、立ち上がりや歩行などにも不安定さがみられる人です。
その状態のうち、介護予防サービスにより状態の維持や改善が見込まれる人は要支援2になります。
認知症があるか
たとえ体の状態が悪く日常生活の一部に介助が必要でも、認知症がなければ要支援2と判定される場合があります。
運動機能低下のほかに、思考力や理解力も低下しているとみなされれば、要介護1以上の判定となる可能性が高いです。
認知症があるかどうかは、医師の診察を受け、記憶障害の程度を調べる検査や脳の状態を調べる画像検査などを総合的に見て判定されます。
心身の状態が安定しているか
認知症の有無のほかに、心身の状態が安定しているかどうかも要支援2と要介護1の分かれ目です。
心身の状態は客観的な判断が難しいですが、主治医の診察を受けて「半年以内に心身の状態が大きく変わる可能性がある」と判断されると、要介護1以上の判定を受けやすくなります。
また、要介護認定を受ける際は、その旨を主治医意見書に反映してもらうことが必要です。
要介護1と要介護2の違い
要介護1は、要支援2だけでなく要介護2とも近い状態です。要介護2は食事や排泄、入浴といった日常動作についても部分的な介護サポートが必要になります。
また、身だしなみを整えたり部屋の掃除をしたりするといった家事全般にも介助が求められます。認知機能に関しても要介護1より状態が低下しており、日常生活に大きな支障をきたすことが多いです。
さらに、要介護1は、適切な介護サービスを受けることで要支援に改善することが期待できますが、要介護2では容易に要支援状態に改善できないほど心身の状態が衰弱していることがほとんどです。
先述したように、本人の心身の状態や生活環境によって判定が変わりますが、要介護1と要介護2の違いを知っておくと、状態が悪化したときに迅速な対応をしやすくなります。
要介護1の区分支給限度額
介護保険制度では、認定を受けた要介護度に応じて、サービス利用時の支給額に限度が設けられており、これを「区分支給限度額」と言います。
介護サービス利用時の自己負担額は所得に応じて利用料の1~3割ですが、区分支給限度額を超えた分は全額自己負担しなければなりません。
要介護1の場合、1ヵ月あたりの区分支給限度額は16~17万円程度です。要支援2が約10万円、要介護2が19~20万円程度であることを考えると、介護認定の結果によって介護保険で利用できるサービスの程度が大きく変わるのが分かります。
要介護1の人が受けるサービスの具体例
では、要介護1と判定された場合、区分支給限度額の範囲内で受けられるサービスにはどのようなものがあるのでしょうか。要介護者が受けられるサービスは、次の3つに分けられます。
- 自宅で生活しながら受ける介護サービス
- 施設で受ける介護サービス
- 福祉用具のレンタルサービス
これらのサービスごとに、要介護1の人が受けられる支援の具体例を紹介します。
自宅で生活しながら介護サービスを受ける場合
自宅で生活しながら受けられる介護サービスの例として、通所介護(デイサービス)や訪問介護、訪問看護や訪問リハビリなどがあります。
通所介護では、日帰りで施設に通って食事や清潔ケア、リハビリやレクリエーションなどのサービスが利用可能です。訪問介護では、ホームヘルパーに自宅を訪問してもらい、食事や清潔介助のほかに、掃除や洗濯、買い物や通院の付き添いなどをサポートしてもらいます。
要介護1の人がこれらのサービスを受ける場合、通所介護、訪問介護ともに週2~3回程度を目安として利用できます。ただし、利用する施設や事業所、利用時間や夜間対応の有無などの要因で料金が変わるため、ケアマネージャーやサービス事業者と相談しながら支援内容を決めるとよいでしょう。
施設で介護サービスを受ける場合
施設に入所するタイプの介護サービスには、介護老人保健施設や介護療養型医療施設、有料老人ホームや介護医療院などがあります。
しかし、施設入所を希望する方が多かったり、エリアや施設によっては介護度が高い人から優先的されたりするため、なかなか入居できない場合もあります。
要介護1の人が利用する施設サービスとして多いのが、介護付き有料老人ホームです。有料老人ホームは、家賃や管理費、水道光熱費といった月額利用料は全額自己負担しなければなりませんが、そこで受ける介護サービス費用は1割負担なので、区分支給限度額の範囲内で費用を抑えて生活援助やリハビリなどを受けられます。
ただし、入居時に契約金が必要なところなど、施設ごとに料金形態が大きく異なります。そのため、施設サービスを利用する際は、施設ごとの特徴を比較するとともに、契約内容をよく確認してから利用開始することが必要です。
福祉用具をレンタルする場合
介護スタッフの支援を受けられる時間は限られるため、安心・安全な日常生活を送るには福祉用具の使用も検討しましょう。
福祉用具には介護ベッドや車椅子などさまざまな種類がありますが、要介護1の人が使える福祉用具は次の4つに限られます。
- 歩行器
- 歩行補助杖
- 手すり
- スロープ
手すりやスロープは工事を伴わないものに限定されています。ただし、医学的判断によって特別必要な福祉用具があると認められれば、市区町村で手続きすることで例外給付を受けられるので、迷った場合は相談してみるとよいでしょう。
介護サービスを利用するまでの流れ
介護サービスが必要な状態になったら、なるべく早く導入手続きを進める必要があります。介護サービスを利用する手順は次の通りです。
- 介護保険の利用を申請して認定調査を受ける
- 審査結果を受け取る
- ケアマネージャーにケアプランを作成してもらう
これらの流れを詳しく説明します。
介護保険の利用を申請して認定調査を受ける
介護サービスを利用するには、まず要介護認定を受ける必要があります。要介護認定を受けるには、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに行き、申請書を提出しましょう。
本人が手続きに行けない場合は、家族が申請を代行することも可能です。介護保険証や医療保険証、印鑑も必要なので、忘れずに持参しましょう。
要介護認定の申請が終わったら、認定調査員がどの程度の介護(支援)が必要なのかを自宅などで本人の心身の状態を調査します。
また、審査には主治医の意見書が必要なので、市区町村がかかりつけ医や市区町村の指定医に意見書の発行を依頼しましょう。
審査結果を受け取る
調査結果をもとに、全国一律基準のコンピューター判定がおこなわれ、その結果を参考にしながら介護認定審査会で医療や保健・福祉の実務経験者が要介護度を判定します。
申請者のもとへは、申請から原則30日以内に判定結果が届きます。
ケアマネージャーにケアプランを作成してもらう
判定結果で要介護状態と判断されたら、市区町村や地域包括支援センターの紹介などを受けながら担当ケアマネージャーを決めます。
ケアマネージャーはいろいろな施設に在籍しているため、自宅から近い事業所やサービス利用を考えている施設に在籍するケアマネージャーを選ぶと良いでしょう。
また、利用する介護サービスを決めるときは、ケアマネージャーと相談しながらケアプランに組み込んでいきます。
その際、要介護度に応じて区分支給限度額が設定されているため、自己負担額を抑えるためには限度額の範囲内で利用するサービスの種類や頻度を決めなければなりません。
ケアプランが決まったら、各サービス提供事業者と契約し、計画に基づいて介護サービスを利用開始します。
まとめ
要介護度によって利用できるサービスの種類や受けられる給付額が変わるため、要介護1以外の状態についても知っておくと、状態変化に応じて適切なサービスを選択できるようになります。
施設や事業所が提供するサービスとの相性は利用してみなければ分からない部分もありますが、口コミやケアマネージャーのアドバイスを参考にすると、選びやすくなるでしょう。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。