少子高齢化が深刻化する日本では、日常生活に手伝いが必要な要介護者の増加が問題になっています。
要介護者やその家族を支える仕組みとして「介護保険制度」がありますが、「介護保険はどのように使えばいいの?」「どのように介護保険サービスを選べばいいのか分からない」という人も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護保険の概要や使い方、介護保険サービスの種類や選び方について説明します。
まずは介護保険制度について知ろう
介護保険制度は2000年に創設された制度で、高齢者などが安心して暮らすためにさまざまな方面から支援しているのが特徴です。
介護保険制度で受けられるサービスは、施設サービスや訪問サービス、福祉用具サービスなど多種多様で、要介護者の状態に応じて適切な支援ができるよう、ケアマネージャーが中心となって介護プランを立案しています。
介護保険サービスを使うと利用料が発生しますが、介護保険制度を使えば自己負担額が利用料の1~3割に抑えられます。経済的な負担を抑えつつ適切なサービスを利用できるのです。
介護保険サービスの対象者
介護保険のサービスを利用できる対象者は次の通りです。
分類 | 第1号被保険者 | 第2号被保険者 |
保険加入の対象者 | 65歳以上 | 健保組合や全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険に加入している40~64歳の人 |
適用条件 | ・要支援状態になったとき ・要介護状態になったとき | 特定疾病が原因で要介護(要支援)状態になったとき |
第2号被保険者(40歳から64歳)の場合、特定疾患により介護認定を受けた場合のみサービスの対象となります。
- 末期がん
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
ただし、第2号被保険者ががん治療を受けている場合は、症状緩和など根治を目的としていない末期がんに限ります。このように介護保険サービスの利用を検討する際は条件がある場合もあるのでよく確認しましょう。
介護保険サービス費用の仕組み
介護保険サービスの公費負担部分は、被保険者の納める介護保険料と税金で半分ずつまかなわれています。
被保険者は年齢によって分かれており、65歳以上は第1号被保険者、40歳から64歳は第2号被保険者に該当します。
そのため、40歳になると介護保険の加入が義務付けられ、介護保険料が健康保険料と一緒に徴収されるのです。
また、税金の内訳は国が25%、都道府県が12.5%、市町村が12.5%となっており、40歳未満の人が納める税金も、介護保険制度の運営に使われています。
介護保険サービスの使い方
介護保険が適用されると自己負担を抑えて介護保険サービスを利用できますが、利用開始するにはいくつかの手続きが必要です。
ここでは、介護保険サービスの使い方について説明します。
要介護認定の申請をする
介護保険サービスを使うには、まず要介護認定を受ける必要があります。
要介護認定は、市区町村役場の介護保険課や地域包括支援センターで申請可能です。そこで「介護保険申請書」を受け取り、氏名や生年月日、住所などの必要事項を記載して、介護保険者証を一緒に提出すると受け付けてもらえます。
訪問調査を受ける
要介護認定の申請が終わったら、訪問調査員が本人の起き上がりや排泄、食事等の状況を調査します。訪問調査員は市区町村役場の職員や市役所から委託を受けた人です。
訪問調査では、介護を受ける人の心身の状態を調査員が直接確認しますが、本人のみでは現状を正確に伝えられないかもしれません。
そのため、調査日が決まったらなるべく家族も立ち会い、調査員に心身の状態や日常生活での困りごとを詳しく伝えましょう。
認定審査会で審査される
訪問調査が終わったら、医師や看護師、薬剤師や介護福祉士などの保健や医療、福祉の専門家が集まって認定審査会をおこないます。
認定審査会では、全国共通のコンピューター判定と主治医の意見書をもとに、公平・公正な認定結果が出されます。
認定結果を受け取る
認定審査会で要介護度を判定されると、本人や家族宛てに認定結果が届きます。結果通知は、要介護認定を申請してから30日程度で結果通知を受けることが多いです。
認定結果は、「要介護1~5」、「要支援1または2」、「非該当」のいずれかで、要介護であれば介護保険サービスが利用できるようになります。
要支援・非該当の認定を受けた場合
要介護認定が要介護であれば介護保険サービスが利用できますが、要支援では利用できません。ただし、要支援でも介護保険が適用される「介護予防サービス」は利用できるので、自己負担額を抑えながら要介護状態を予防できます。
非該当と認定された場合、介護保険サービスも介護予防サービスも利用できませんが、地域支援事業の利用が可能です。
地域支援事業は、被保険者が要介護状態又は要支援状態となることを予防し、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援することを目的としています。
利用できるサービスは市区町村ごとに異なりますが、こちらも費用の一部を介護保険が負担してくれるので、自己負担額を抑えて健康的な暮らしを保つことが可能です。
ケアプランを作成してもらう
要介護の認定が出たら、介護保険のプロであるケアマネージャー(介護支援専門員)にケアプランを作成してもらいましょう。
ケアマネージャーは、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターで紹介してもらうことも可能で、自宅から近い事業所や利用しようと考えている施設に在籍するケアマネージャーに依頼するケースが多いです。
ケアプランを作成する際は、どのような介護保険サービスを利用したいかをケアマネージャーに伝え、一緒に計画を立てます。
サービス利用中に計画を変更することも可能なので、ケアマネージャーとしっかりコミュニケーションを取り、状態変化に合わせて常に適切なサービスを受けられるようにしましょう。
介護保険サービスを利用開始する
ケアプランの作成が終わると、各介護保険サービス事業者と契約を結び、サービス利用を開始します。
自己負担額が1割から3割とは言え、事業所によって利用料金やサービス内容が異なるため、場合によっては経済的な負担が増えてしまいます。
サービスの契約書には難しい文章がたくさん記載されていますが、細かい部分を見逃すと後からトラブルになる可能性があるため、料金や内容を十分に確認してから契約を締結しましょう。
介護保険サービスの種類と特徴
介護生活を充実させるには、適切な介護保険サービスを選ぶことが大切です。
主な介護保険サービスの種類と内容は次の通りになります。
サービスの種類 | 内容 |
居宅介護サービス | 介護を受けながら住み慣れた住居で暮らし続けるためのサービス |
施設介護サービス | 介護施設に入所して身の回りのお世話をしてもらえるサービス |
地域密着型サービス | 要介護者が、できる限り住み慣れた地域で暮らし続けられるようにすることを目的としたサービス |
それぞれを詳しく見ていきましょう。
居宅介護サービス
居宅介護サービスは、介護を受けながら住み慣れた住居で暮らし続けるためのサービスです。
このサービスは、大きく分けて「訪問サービス」「通所サービス」「短期入所サービス」があり、それぞれ特徴が異なります。
訪問サービスには、訪問介護や訪問入浴、訪問リハビリテーションや訪問看護などがあり、自宅で介護や医療処置を受けられるのが特徴です。
通所サービスには、デイサービスやデイケアがあり、日帰りで施設サービスを受けられます。そして、短期入所サービスは、ショートステイとも呼ばれており、一時的に施設に入所して食事や排泄、入浴などのケアを受けられるのが特徴です。
施設介護サービス
施設介護サービスは、介護施設に入所して身の回りのお世話をしてもらえるサービスです。
施設名 | 利用目的 |
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 原則、終身にわたって介護が受けられる |
介護老人保健施設 | 家庭への復帰を目指し、自立支援を受けられる |
介護療養型医療施設 | 重度の要介護者に対し、充実した医療処置とリハビリが受けられる |
介護医療院 | 長期の療養と介護を兼ね備えており、医療的ケアが充実している |
このように施設によって利用目的が異なります。また、要介護3以上でなければ特別養護老人ホームは利用できないなど、利用条件も施設ごとに異なるため、ケアマネージャーと相談しながら入所施設を決めましょう。
地域密着型サービス
地域密着型サービスは、2006年の介護保険制度改正で創設されたサービスになります。要介護者が、できる限り住み慣れた地域で暮らし続けられるようにすることを目的としており、市区町村が主体となって運営しているのが特徴です。
また、地域密着型サービスは、市区町村の実情に合わせたサービス提供ができるのもメリットです。
具体的には、訪問介護と訪問看護を組み合わせたサービスや、通いを中心として訪問介護や短期入所サービスを柔軟に切り替えられるサービスなどが挙げられます。
使い慣れた施設や顔なじみのスタッフに囲まれながら幅広いサービスが受けられるので、より安心して介護生活が送れると期待されています。
介護サービス事業所を選ぶ際のポイント
介護保険サービスにはさまざまな種類があります。以下では、適切な介護サービス事業所を選ぶポイントを説明します。
利用するサービスを直接確かめる
利用する介護保険サービスは、ケアマネージャーに任せて選んでもらうことも可能です。
しかし、実際に利用してみると「自分に合わなかった」と感じるかもしれません。こうした事態を避けるには、利用する前にサービスを直接確かめることをおすすめします。
たとえば、入所施設の責任者や介護スタッフから直接話を聞いたり、施設内の様子を見学したりすると、入所後の生活をイメージしやすくなります。
通所サービスであれば、送迎時の対応や施設内の設備、スタッフの対応などをチェックすると、自分に適しているか判断しやすくなるでしょう。
料金体系を確認する
介護保険を使ったとしても、利用するサービスによっては自己負担額の合計が大幅に増える場合があります。せっかく理想的なサービスを見つけても、料金が負担になると長期での利用が難しくなる可能性があるため注意が必要です。
また、おむつや食事、医療費や日用品など、介護保険が適用されないサービスも把握しておきましょう。体の状態によっては雑費だけでかなりの自己負担になるケースもあるので、長期的な視野を持ってサービスを選ぶことが大切です。
立地やアクセスが良い場所を選ぶ
サービス内容や料金のほかに、利用する施設や事業所の立地やアクセスも重要なポイントです。送迎に時間がかかったり、訪問までの時間が長くなったりすると、体への負担が増えるだけでなく急な体調変化への対応も遅れてしまうからです。
また、立地やアクセスが良いと、家族や知人が訪問しやすくなるというメリットもあります。
まとめ
いざというときに、介護保険の申請方法や利用できる施設、自己負担額などの知識を持っていると慌てずに済みます。 また、両親の介護やいずれ自分自身が介護を受けるときに、スムーズに介護生活を始められるように、理解を深めておくとよいでしょう。
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宮里 恵
(M・Mプランニング)
保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。